ドラムやパーカッションで、「1日5分間だけ、毎日これをやると上達する」という話を見かけることはありませんか。
5分に限らないかもしれませんが、特に基礎練習でよく見かけますね。
確かに、その通り練習すればうまくなりそうな気がしますが、実際どうなのでしょう?
毎日短時間の基礎練習を続けた人がほんとに上達したのか、ネット上の声を調べてみると、上達した人としなかった人の両方がいるようでした。
「毎日楽器に触れることで違いが出てきた」「短時間でも積み重ねで効果があった」という人がいる一方、「ただ繰り返しているだけで効果が感じられなかった」という人もいました。
効果があった人となかった人では何が違うのか、ちょっと疑問です。
私も、毎日5~7分の練習をしていますが、どうせやるなら効果が出るようにしたいものです。
そこで、1日短時間の練習(以下、5分間練習と書きます)を続けることが、なぜ楽器の上達に効果があるのかを運動科学の知見から調べて、効果的な練習のやりかたを整理してみました。
その結果、私も毎日の5分間練習の意味がわかり、練習をする時の意識が少し変わりました。
この記事では、1日5分間練習を続けるとなぜ効果が出るのか、また上達するために必要なこと、習慣として続けるコツ、5分間練習に向いている基礎練習の例をまとめました。
1日5分間の基礎練習が上達に効果的な理由

まず、1日5分の基礎練習が、楽器の上達に効果的な理由を、運動科学の視点からまとめました。
運動スキルの上達に必要な2つの要素
運動科学では、”体を動かすスキル”の上達には、大きく分けて次の2つの要素が必要だと言われています。
- 筋力、持久力、柔軟性の向上
- 神経系の適応
1は筋肉や体力などの”体”の問題、2は動きのコントロール、タイミング、精度など”動かし方”の問題です。
運動科学というと、スポーツの研究という印象がありますが、実際には体の動きに関わる広い意味での運動を扱っていて、楽器の演奏やリハビリ、タイピング、書道、外科手術など様々なものが研究対象になっています。
さて、運動スキルの上達には、1と2の両方がバランスよく向上することが必要ですが、「運動の種類」によって”どちらの影響が大きいか”は異なります。
打楽器を含めて楽器の演奏は、精密な動きのコントロールを必要とする運動です。
この動きのコントロールには、「2.神経系の適応」が重要になってきます。
(「神経系の適応」とは、脳を含めた神経がその動きを記憶することと考えられる)
特に、初期〜中級レベルでは、ここが上達のボトルネックになることが多いそうです。
このレベルでは、基本的な動き方を学ぶことが主な課題だからでしょう。
もちろん、筋肉が必要ないわけではないのですが、筋肉は通常の練習の中で身についてくることが多く、上達のキーになるのは、神経系の学習によるということです。
例えば、無駄のない動きで楽に叩ければ、打楽器の演奏はうまくなれそうだと感じませんか。
その方法は、神経系の学習によって身につくと考えるとわかりやすいと思います。
神経系の学習は「集中×短時間×頻繁」が効果的
このように楽器の上達に重要な神経系の適応(学習)ですが、神経系に効率的に学ばせるにはどうしたらいいでしょうか?
運動科学では、神経系の学習には、「集中して正しい動きを、頻繁に反復する」ことが効果的だと言われています。
- 集中
集中してとは、意識的に動きに注意を向けている状態を指します。
集中していないと、気づかないうちにやっていることが正しい動きからずれていく…。そうなりやすいのです。 - 正しい動き
誤った動き、崩れた動きをすると、それが学習されてしまいます。 - 頻繁に反復
一度に長時間やるよりも、短時間でも繰り返す方が記憶されやすい。
記憶の研究ではよく知られていることです。
つまり、集中してできるだけ正しい動きを練習し、それを頻繁にくりかえすことが大切なのです。
そして、上のポイントを抑えるのにぴったりなのが、1日5分間の基礎練習というわけです。
5分間練習は神経系の学習に効果的
5分間練習は、まず、集中がなんとか続きそうな短時間です。
5分間なら集中して、意識を向け続けることができそうではないでしょうか?
また、頻繁に繰り返すという点でも、1日5分間の練習を毎日続ければ、1週間に7回。
週に1度、35分の練習をする場合と比べると、週に1回に対して7回と、頻繁に繰り返すことができるので、神経系にも記憶されやすいのです。
速くよりゆっくり正確に
打楽器の基礎練習って、ゆっくりでいいと言われても、もっと速く、もっと手数を多く、とやりたくなりませんか?
最初はゆっくり始めても、どんどんテンポをあげて「よし!今日は140までできた!」などと考えてしまいます。
もちろん、テンポを上げる練習も必要ですが、5分間練習で神経系に学ばせたいときには、丁寧に正確にやることが一番大切だと言えそうです。
5分間練習で効果を出すために意識すべきこと

さて、「1日5分間の練習」をしようとしたとき、一番大切なのは5分間集中して、できるだけ正しい動きをするという部分です。
意識しない練習は、少しずつ楽な動きにずれていく
実は人には、意識せずただ機械的に動きを繰り返していると、だんだん楽な方にずれていくという特性があるのだとか。
もし、5分間何も意識せずに練習していたら、少しずつ気づかないうちに、自分がやりやすい動き(例えば、力む、タイミングがずれる、など)に変わっていきやすい。
これは、”脳には楽をしようとする傾向がある”ためと考えられます。
意識していないと、いつの間にか自分が楽なやり方にずれていく。
そしてこの時、”楽なやり方”とは、必ずしも効率的なやり方とは限りません。
プロでもこれは同じです。
プロのミュージシャンでも、毎日の基礎練習を欠かさないという話はよく聞くのではないでしょうか。
NHKの「プロフェッショナル」で、ヴァイオリニストの五嶋みどりさんが毎朝1時間の基礎トレーニングをやっている姿を見たことがあります。
ただ音階をゆっくり弾いていくのですが、指だけではなく腕や肩の筋肉の動き、聴覚も意識しているそうで、すごく集中していました。
これをやらないと、とたんに衰えてしまうのだそうです。
また別の番組で、ピアニストの反田恭平さんが、ハノンのような教本で、ひたすら基礎練習をするのを見たこともあります。
やはり、どの指を動かすときに筋肉がどう動くかを、自分の体に意識を集中してゆっくり音階を弾いてました。
やはり、あれは筋肉の動きに集中して練習することによって、自分の中で調整していたんだな、と思いました。
何も意識しないで動きを繰り返すと、いつの間にか違った動きになっていて、神経系は違った動きの方を学習してしまいます。
毎日ちゃんと練習しているのに、効果が感じられない、という場合は、こうなっている可能性もあります。
指や腕、肩、背中などの動きを常に意識して練習するには、実際はかなり集中力が必要です。
そう考えると、5分間くらいが限界かもしれません。
実際、私は5分間でも集中できず、ちょくちょく別のことを考えてしまい、そんなにストイックにできないのが現状。
プロ並みの集中力は無理なので、とりあえず出来る範囲で、大体正しいと思う動きができていればいい…とゆるく考えてやってます。
「できない感覚」はむしろ重要
集中したとしても、自分がやろうとしている動きができないこともあります。
「なにか違うんだよな」と思いながら練習すること、ありませんか?
そういう時は、この「違う」という違和感こそが重要なのです。
「違う動きを覚えてしまうのでは?」と心配したり、「今日、できるようにならなきゃ」と考える必要はないようなので、安心してください。
「違う」という違和感を持っていれば、その違和感も含めて学んでいって、体が正しいやり方を探っていくということなのだと思います。
ただ、明らかにフォームが崩れるとか、力が入ってしまうという場合は、やっていることが難しすぎる可能性があるので、動きを分解する、テンポを落とすなど検討して、難易度を下げる方がいいかもしれません。
5分間練習でやる速いテンポの練習

速いテンポでの叩き方が、ゆっくりの延長ではなく、速く叩く方法は別にあるという場合もありますよね。
その場合は、ゆっくり練習するだけでは習得できないので、練習を分解して考える必要があります。
例えば、次のような手順が考えられます
①ゆっくりの叩き方を確認する
②速いテンポを経験する
最初は形が崩れてもいい
③中間のテンポを見つける
ゆっくりと同じ叩き方で対応できなくなるテンポを探す
④小さな振りで、力を抜いて、リバウンドを生かした叩き方を見つける
⑤テンポをあげる
速いテンポは力みやすいので、最初は長時間やらないのがコツだと思います。
このプロセスを、5分間練習ですこしずつやってみるのもいいかもしれません。
5分間練習”だけ”で上達するわけではない

5分間練習は、効率的に上達できる方法だと思いますが、これは1日5分間の練習”だけ”で上達できるという話ではありません。念のため。
(時々、5分間練習だけで上達できると受け取る方がいるようなので)
1日5分間の練習に加え、何日かに1度のまとまった練習は必要です。
例えば、1週間に1度は1~2時間の練習をするとかですね。
おそらく、各種の5分間練習をすすめている方々も、そういう意図で言っているはずです。
1日5分間の練習では、基本的な動きや音に対する感覚を調整し、神経に学習させることを目的とします。
しかしそれ以外に、曲を通して演奏する、音楽としてどう演奏するかを考える、フレーズをつなぐなどの練習も必要で、それにはある程度まとまった練習時間も必要になってきます。
5分間練習で基礎をある程度身につけておいて、まとまった練習では曲をどう演奏するかという練習に重点的に取り組む。そんなイメージだと思います。
5分間練習を習慣化するために

5分間練習は、短い時間で取り組みやすく習慣にしやすいですが、それでも続かなかったという人はいます。
ここでは、5分間練習をうまく習慣にして続けるためのヒントをまとめました。
続かなかった人によくあるパターン
ネット上にみられる”5分練習が続かなかった人”にみられるパターンを整理しました。
よくあるのは、大きく分けて次の3つでした。
- たった5分でも面倒でやらなくなる
- 効果が感じられず、やらなくなる
- やるのを忘れる
短時間だから簡単に続く…というわけではないようです。
習慣にして続けられるコツ
5分間練習を習慣にして続けるにはどうしたらいいか?「小さな習慣」を参考に考えてみました。
目標をできるだけ小さくする
行動を習慣化するコツは、ばかばかしいくらい小さな目標にすることです。
たった5分でも面倒、という場合は、時間をもっと短く3分、1分など、”このくらいならやってしまおう”と思えるくらい短くしてみる。
目標が1分、あるいはもっと短く8小節だけ練習する…だったら、”面倒だな”と思っている間にやってしまった方が早いです。
やり始めてみて少しやる気が出たら、3分、16小節…という風に少しだけ続けることもできます。
人は、行動を始めるハードルは高いですが、すでにやっている行動をそのまま続けるハードルはそれほど高くないのです。
この他、もしかしたらやろうとしている練習が、自分にとって難しすぎるということもあるかもしれません。
その場合は、テンポを落とす、パターンを分解してシンプルにする、難易度の低い練習がないか探すなどの方法もあります。
すぐ取り掛かれる準備をしておく
できるだけ少ない動作で練習を始められるように、スティックや練習パッド、メトロノームを出しておくことも、習慣化のための定番の方法です。
その練習で期待できる効果を理解する
「効果が感じられずやらなくなる」という場合は、期待している効果とその練習で得られる効果が一致していない可能性があります。
例えば、”曲が弾けるようになる”、”難しいフィルができるようになる”、”見た目もかっこよくなる”など、わかりやすい効果を期待しているかもしれませんが、実際に5分練習で期待できる効果はもっと地味なものが多いのです。
例えば―
- 少し楽にできるようになる
- ミスが減る
- 力みが減る
- リズムが安定する
2,3か月続けると、結果的に”難しかったフィルができるようになった”、”うまくなったねと言われた”ということも十分起こり得ると思いますが、少し時間がかかります。
また、思ったように効果が出ない場合、やっている練習が、習得したい動きからずれて自分の楽な動きになっていないかをチェックするのもいいかもしれません。
やるタイミングを決める
やるのを忘れてしまわないように、いつやるかは時間ではなく、タイミングで決める方が習慣化しやすいです。
何時になったらやる、と決めるのではなく、「朝起きたら練習する」「夕食前に練習する」「お風呂の前に練習する」など、タイミングで決めておくと、それをきっかけにして思い出して始めることができます。
慣れて習慣になると、”朝起きたら、何も考えずに練習場所に行く”という風にもなりやすいのです。
5分間練習の例

打楽器の5分間練習でできることの例を集めました。
すでに1日5分間(短時間)の練習におすすめとされているものはもちろんのこと、ドラムやパーカッションの基礎練習のパターンには、5分間練習に向くものが多いと思います。
練習パッドやメトロノームでできるものも多く、気軽に続けやすいのではないでしょうか。
ドラムのパッド練習
ドラムでは王道の、練習パッドを使った練習には、5分間練習に向いているものが多いです。
例えば―
- チェンジアップ(一定テンポで1小節に入れる音数を変えていく)
- パラディドル(シングルストロークとダブルストロークの組み合わせ)
- アクセント移動(強拍と弱拍の組み合わせ)
- スティック・コントロール(教則本)の練習
- ダブルストロークの練習
コツは、テンポアップを目指さず、力を入れずに動きを調整することだと思います。
基礎練習では、スティックを大きく振りかぶるようにアドバイスされることもありますが、最初から大きく振りかぶることを目指すというより、余計な力を使わず振りかぶれるやり方を探す方がいいのではないかと、感じています。
リズム感トレーニング
メトロノームと手拍子だけでもできる練習です。
例えば―
メトロノームで♩=60くらいで、四分音符→八分音符→裏拍→3連…
のように手拍子を変化させるチェンジアップなど。
パーカッションなら、楽器を叩くように机をたたく方法もありますね。
(私は初心者の頃、コンガの手の形で机を叩いて練習してました)
足のリズムトレーニング
手のリズム感トレーニングと同じことを足で。
手と足を組み合わせるのもよさそうです。
リズム読む練習(ソルフェージュ)
楽譜を読んで、口で言う→手拍子→スティックで叩いてみる。
のように、楽譜を読んでリズムを叩く練習です。
初心者の方に特におすすめ。
慣れると、耳コピで譜面を書くのもやりやすくなります。
演奏イメージをもつ練習
頭の中で演奏しているイメージを繰り返すだけで上達する、ということを利用した練習方法です。
これは、神経科学・運動学習の研究で、効果があることが示されています。
例えば、ピアノを実際に弾かなくても、頭の中で弾くイメージを繰り返して練習するだけでも、上達するという例があります。(ただし、実際に楽器を弾いた方が上達の度合いは大きいそうです)
これを応用すると、ドラムやパーカッションでも「頭の中で曲を演奏する」「手順をイメージする」などの練習が考えられます。
これなら、楽器や練習パッドがなくてもどこでも練習できますね。
ただ、実際にやるとなると、イメージだけで演奏するのはかえって難しく、手足を実際に動かしてシャドウプレイで練習するほうがやりやすいかもしれませんが…。
とは言え、電車の中などでもイメージならできるので、忙しくて練習時間がなかなか取れない方などはいかがでしょうか。
私の場合の5分間練習

最後に、私がやっている5分間練習を紹介します。
私は以前、無理な練習をして肩を痛めたことがあります。(五十肩)
その時やっていたのは、バスドラとキックペダルを組み合わせたコンガの演奏で、ちょっと特殊な組み合わせでした。
(普通にパーカッションをやって肩を痛めることはあまりないんじゃないかな、とは思ってます)
ただ、50代からパーカッションを始めて、本人はやる気があって筋肉を動かそうとしても、肩関節がついてこれないことがあると知りました。
その時はしばらく練習できず、再開したのですが、再び肩を痛めることがないようにフォームを改善しようと、自分なりに練習方法を考えました。
目標は、インナーマッスルをちゃんと使って、無駄のない動きで演奏すること。
5分間練習は、ドラムスティックと練習パッドを使って、♩=60でチェンジアップを3分、アクセント移動とパラディドル、ダブルストロークを2分、シェイカーを振るのを1~2分やってます。
合計7分くらい。
この他に、インナーマッスルの使い方を確認する簡単なエクササイズをやっています。
(これはYoutubeとAIからの情報で考えました)
このような基礎練習では、スティックの振りかぶりをある程度大きくするのが基本かと思いますが、私はあえて振りかぶりを気にしすぎず、軽く、リバウンドを殺さないように心がけています。
最初はこれだけの練習でほんとに効果があるのかと思いましたが、続けていると地道に効果が出て、楽な振り方がわかったきたように感じます。
また、痛みが出て修正することもあります。
新しい動きを習得するのが目的なので、短時間を繰り返すこの練習は、時間はかかるけど微修正が可能でちょうどいい。
焦らず、少しずつ続けていこうと思います。
まとめ
1日5分の練習でも、意識の持ち方によってその効果は大きく変わります。
大切なのは、集中して正しい動きを繰り返し、神経系に学習させることです。
短時間でも積み重ねれば、少しずつ変化は現れてくるものです。
この記事が、無理のない形で習慣にして、日々の練習に取り入れる参考になれば幸いです。












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